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流されるままに。 呑んでいればご機嫌。
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わがままの罪滅ぼしの桜かな
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つちふるや出発の地の大鳥居

歯朶萌ゆる33の同い年

頬を置く春ゆく川を眺めては

春愁や頬にひやりと風呂の縁

雫する瞬間(とき)とどめたる樹氷かな
熊野へ行った。
車で行った。

何も感じなかった。
神様には、出会えなかった。


わたしが神様を感じるには、たっぷりと時間をかけて、歩くことが必要だなぁ。
自然が身体に沁みこむまで、魂の芯に空間ができるまで歩き続けて、
そうしたらやっと神様に出会える。
朝歩くのは気持ちいい。しかも重い荷物は持っていない。軽い身体で登っていく。涸沢の紅葉は、霧一枚の薄いベール覆われている。奥穂へのザイテングラードもそうだが、北穂へのこの道も、少し行くだけで涸沢がどんどん小さくなっていく。張りっぱなしの自分のテントが点になっていく。気分はうきうきしている。ところが残念ながら天気は危うい。今日は行って帰ってくればいいのだから、多少の雨でも大丈夫。そうは思っている間にも霧雨がかかってきて、足を速める。霧雨がいよいよ小雨になってくると、果たして登るべきか戻るべきか、考え始めることになった。降りられなくなるのが一番問題だし、何かあっても人が全然いない。とにかく一人で登る以上、危なそうでなくても、迷ったら止めるということをルールにしようと考えていた。どうしようかな、歩きやすい楽な道とは言え、結構急で、石が滑りやすそうだ。行かないと判断するなら早いほうがいい。だらだらと、行くと行かないの間をうろうろしながら登っていたけれど、やっぱりやめよう、と決めて引き返すことに決めた。残念だなあ、と思いながらも、まだ足元に問題ないうちに戻ることにしたことが、きっと正しい選択だろうと思いながら来た道を下りるのだった。

しばらく戻ると、若い女の子、そして男の子がカップルで登ってきた。「こんにちは。」「こんにちは。」「どうしたんですか?」「雨だから・・・。下りようかな、と」「そうなんですか。わたしたちはがんばって行ってみます。」「お気をつけて。」それからもうしばらく戻ると、今度は女性が一人で登ってくる。「こんにちは。」「こんにちは。」この女性は、昨日の夜、ちょっと話した人だ。上高地のホテルで働いていて、大好きな北穂に行きたくて平日にお休みを取ったという話だった。北穂小屋も大好きで、お友達がいるという。足に自信がないから、雨が降ったら頂上まで行けるかわからないけれどそれでもいいと言っていた。もうすでに雨は雨らしくなっていた。その雨の中、黄色のレインウエアのその女性は、丁寧に歩いていた。すれ違ってから、考えた。やっぱり登ろうか。最初に登っていった女性は戻ってこない。わたしの後から登ってきた人もいた。北穂までのこの道には、わたしだけではない。それはとても心強いことだった。登ろう、という決意が固まった。そして、登った三分の二をもったいなくも下ったところで、もう一度方向転換をした。道は頂上へ向かっている。

そんなこんなでまた登り始めた。下りた分を取り戻そうと頑張ったら、黄色の女性を追い越して、カップルちゃんに追いついた。「速いですね」なんて言われてながら、追い越したり先に行ってもらったりしながら、二人と似たようなペースで上へ向かう。順調に登っていると、なんと、朝一番でスタートした臙脂の女性が下りてくる。「梯子を登って尾根に出たんだけど、もういいわ」。わたしよりだいぶ前に出発して、しかもわたしは一度戻ったりしているから、かなり前を行っていたはずだ。わたしたちのところまで戻ってきたということは、相当な距離を戻ってきたのだ。同じだ。前後に人なく単独で登っているときの気持ちは同じだ。「一緒に行きましょうよ。」と言ってみたけれど、「やめておくわ」と下りていく、その背中を見送る。かなり行くと、件の梯子で、そこまでかなりの距離があったので、臙脂の女性の無念を思った。梯子を登り、なんだかそこでゴールが近い気分になったが、実はまだ半分くらい。ここから道は起伏にとんで急になってきて、まだまだ続くのだった。そんなことはまだ知らず登っていると、今度は後ろから青い健脚のお兄さんが登ってきた。昨日ビールを片手に話した一人で、出遅れたと言いながら、雨だとペースが遅くて参るよと言いながら、よいペースで登っていく。

一生懸命、という言葉がぴったりとくる。じぐざぐな急登の途中で腰を下ろしてパンに噛りつく。カップルちゃんが追い越して行く。また登りはじめると、今度はカップルちゃんが小休憩。カップルちゃんを追い越して、もう頂上か、まだ頂上は、と思いながら、歩く。登る。雨は、止まない。ふと、前に、青い健脚のお兄さんがお湯を沸かしている。「コーヒー飲みたいでしょ。」冷えた身体に、疲れた身体に、熱い一杯のコーヒーは嬉しいに決まっている。お兄さんもそれをわかっていて、答えるまもなく当たり前に一杯注いでくれる。熱いコーヒーを両手に挟んいると、手は温まるし香り立つ湯気が楽しい。そうやって休んでいると、下りていったはずの臙脂の女性が登ってくるのが見える。やっぱり登ることにしたのだ。先頭で一人だと不安になるが、これだけ登る人とすれ違ってみると、やっぱり登ろうという勇気になる。手を振って応援する。そう、ここには、もう一息の道標があったのだ。ここまで来ればもうすぐだ。

昼過ぎに辿り着いた涸沢は、広く、雄大で、山全体が色付いていた。ぐるっと囲む穂高の山々が、山頂を残して、オレンジと黄と緑と赤で粧っている。期待もしていなかった、静かな紅葉。例年より10日早い、と人々は言う。すでに10月の連休の予約を入れながら、慌てて来た、という悠々自適のおじさまは珍しい。まばらにいる人のほとんどは特に紅葉を期待していたわけでもなく、自分たちの運を素直にかみしめる。この紅葉の中に、あとは夕暮れまで浸っていればいい。テントを張り終えたら、生ビールを一杯買って、小屋横のテラスに一人腰かけ、明るく色付いている穂高をただ眺めていればいい。ビールを呑みながら紅葉を眺め、穂高を見上げていると、テラスにも、一人、二人と人が増えてきた。楽しそうな仲間連れもいれば、同じような単独者もいる。ビールを片手に、臙脂のレインウエアの女性に声をかけられる。同年代らしき男性も同じテーブルに腰かける。お一人様同士、明日の予定を聞き合ったりするが、単独で来ているだけあって、みんなそれぞればらばらに、目的の山、行きたい道、がある。北穂を見つめながら、奥穂を見上げながら、北穂と奥穂を結ぶ稜線上にある涸沢岳とその稜線を目で辿りながら、それぞれに自分の明日の山を夢見ている。わたしは明日どっちへ登ろうか。

朝起きて、テントから顔を出すと、臙脂の女性が、もうさっそく前を通る。今回は絶対北穂を踏むと、昨日熱く語っていた。決めた。北穂に登ろう。

予報通り、このあと雨になるのだろう。それなら早く出発だ。ルートは空身で北穂ピストン。身支度をして、臙脂の女性より30分遅れて、一人出発する。
穂高二度目にして、なんと今年は紅葉真っ只中の涸沢である。涸沢は3000Mを超える穂高の山々に囲まれた広いカール(2300M)である。西に奥穂高、奥穂から南へは前穂高への吊尾根、その先をずっと辿れば東の屏風岩まで、奥穂から北へは涸沢岳・北穂高と稜線が連なる。穂高の威容を見上げながら、谷と山腹は、高度によって、また一日毎に黄からオレンジ、赤へと濃くなってゆく。オレンジの頃も、真っ赤なのも、どちらも涸沢の紅葉として名高い。山に登る人間は一度は涸沢の紅葉を見たい思う。見ごろは例年ちょうど10月の連休頃で、その連休は半端ない数の人が涸沢に集まる。それでも広い涸沢は、そのたくさんの人を懐に抱えるのである。思い立って出かけたのは9月26日だった。まだ紅葉にはだいぶ早いはずの中途半端な土曜日、実は全然紅葉目当ではなかったのである。

日曜朝の上高地は人も少ない。上高地で人と語らうこともなく、おにぎりだけ食べて歩き始める。前夜、夜行バスの出発までの時間、ダンス部時代の先輩が呑んでいるお洒落な飲み屋に顔を出した。テントまで入っている65Lのザックはバス乗り場に置き捨てて、山の格好にサンダルをつっかけていた。一人は年が経つごとに親しくなる同性の先輩。他の二人は7年ぶりくらいに会う、学生時代もほとんどしゃべったことのなかった海外帰りの先輩と、同じくらい久しぶりの、ダンス部卒業後も同じ銀行で銀行員をやっていた因縁のある先輩だった。-7年ぶりに会うダンス部の、銀行の後輩のオンナは、どうしてしまったのか、驚いたことにどうやら山にはまっているらしい。。。わたしは「なぜか山にはまってしまった山好きなオンナ」だった。7年を経て会う先輩の前で、わたしはそのことを自覚した。わたしはこれから、一緒に呑んでいる先輩たちと別れ、一人テントを担いで穂高へ向かうのだ。自分の選択として穂高へ行くということが、何か一言発する度に、自分のものになっていった。「わたし」と「山に登ること」が、直接つながった瞬間だった。上高地から歩きだしたとき、あらためて、「わたし」と「山に登ること」が同じものであることを感じだ。穂高に向かって歩くことが、わたしにとって当然の道になっていた。
筆舐めてすごそこに落つ椿かな

艶やかや恋人の日の落椿

紅椿ラムボンボンに文添へて

チョコレートいただきましたと春の風

春雨のしつとり東京タワーにも


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