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流されるままに。 呑んでいればご機嫌。
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山頂へ行く道天の川の道

夏草にごろりと星を撮る間

夏雲は冷え沈みたり街灯

細き背を地のすれすれに夏の月

夏暁や浮かぶ勾玉形の湖
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手花火や酔わねば読めぬラブレター
我が手より天に向かひし蛍かな
壺らしく壺をおさめて梅雨に入る
わたしの最初の仙台の記憶は、1984年11月11日。その日は土曜か日曜で、小学校2年生のわたしの学芸会の日だった。学芸会を見に来た母と祖母と一緒に、叔母の家へ遊びに行った。叔母の家の電話が、そのとき鳴った。「おきにいちゃんが死んだって。」母と叔母の兄、祖母の長男である仙台の叔父が亡くなったという、一本の電話だった。

いったん家へ帰ったのか、どうやって仙台へ行ったのかは覚えていない。次の記憶は仙台の叔父のマンションだ。マンションの11階の叔父の家で、叔父の奥さんは大声で泣いていた。昨日は叔母の家で遊んだ叔母と、叔父の眠る横で再会した。「叔父ちゃん死んじゃったね。年齢順で行くと、次は叔母ちゃんかな。嫌だね。」とこっそり言った叔母に、「まだ大郎叔父ちゃんがいるよ。」とわたしは答えた。大郎おじちゃんも好きだったけれど、毎日うちへ来てくれる珠子おばちゃんはもっと好きだった。わたしはお通夜の道案内用の、「千葉家」と書かれた矢印の紙を貼りに伯父と一緒に外へ出た。11階という長い階段を歩いて降り、歩いて登ってはしゃいだ。小学校2年生のわたしには、身内の死は初めてだった。死んだらどうなるのだろう、という問いは、もっと小さいときから思ったことがあった。それが具体的な不思議になった。死んじゃうって、どうなることなんだろう。今考えているみたいなことも考えることができないのかな。焼かれちゃって埋められちゃってから間違いだったら、どうなるんだろう。夜は、そんなことを考えて、なかなか寝付けなかった。
 
 一昨年2008年5月、叔父が亡くなり、一つ年下の叔母は昨年2009年9月4日に亡くなった。叔母と叔母の死について秘密の会話をしてから25年。25年死なずに生きてきたけれど、わたしが大人になってからは、自分の不甲斐なさから、親戚付き合いを絶っていた。たった2回行くことのできたお見舞いは、もう遅すぎた。小学校2年生だったわたしは32歳になり、叔母は74歳だった。叔母の葬式で、初めて上の従兄姉が仙台に馴染み深いことを知った。祖母がまだ仙台にいた頃は、従兄姉たちの夏休みは、毎年仙台だったのだ。叔父も叔母も母も祖母も従兄姉たちも、みんな仙台にいたのだ。

明治39年(1906年)11月6日、壁梧桐は12年前の仙台を思い出している。壁梧桐も、仙台にいたのだ。虚子と一緒に、人生を悩みながら。
万緑へ風へくるくる回る靴

緑陰や脳に百万折の皺

扇なしてゆく万札や聖五月

ちゃぶ台に足四っつ万太郎の忌

万華鏡祖母と二人の夏座敷
「浮雲」24句

高原をゆく風に花ミモザかな

カンナ咲く白亜の家の仕事部屋

緋のカンナ手持無沙汰の無為なる手

平凡は呪いの錘緋のカンナ

異国には白亜の家と夜の露

ピクニックは沼ある森の安ホテル

秋霖の路地ゆけば路地細くなり

秋驟雨へ男のうしろ姿かな

寒風の揺らす着物の紺飛白

冬ざれの知らぬ町には知らぬ道

火鉢あるところに火鉢ない広さ

どちらともなく疲れ果て薄布団

隙間風睨みて熱き白き飯

隙間風大きな枕の抱き心地

旋律のこぼるる小箱冬籠る

マフラーの赤待つてゐる男など

待ち合はせ待たせてあげる寒鴉

焼きそばを掻きこんで見る冬の夢

紅ひいてコート羽織つて生きてゆく

追へば逃げ逃げれば追はれ秋の蝶

林檎食む生命力のある女

冬ざるる海屋久島へ流れゆく

ストーブや言伝は人一人の死

亡骸にそそぐ雨音凍返る
「死者の書」24句

岩牀へ闇へ冷たき雫かな

鴨池に浮かぶいのちの終はりの日

死してなほ姉とおとうと馬酔木折る

軋めきてひつそりとして朧の夜

春の海越へて阿弥陀経一巻

春愁のはじめは鶯想うこと

春分や一文字ずつに墨の陰

濡れしまま置かれたる筆夕雲雀

俤の方へ方へと春の夢

やはらかな旅の衣に春の雨

彼の人の待ちをるところ山笑ふ

旅の笠揺らして風のかがやけり

山をがむために小桜咲ける寺

いつのまに東白みや春燈

梅の香や闇の堅さのほぐれゆく

鶯やけふから空は広がりぬ

花菫くさむらに袖濡らしつつ

白玉のやうなる指(および)春愁ひ

白玉を抱き玉藻なる我が身かな

罪なのか購ふものか躑躅燃ゆ

蓮の花機織の音音を追ふ

虹幾重当麻の里を去りゆきぬ

下萌やふはりふはりと人の恋

春満ちて死者も生者も眠しとや
この小説は、死者が墓の中で目覚めるところから始まる。死者が足掻いたり唸ったり、読者としてはまず一番にぎょっとする。ところが不思議なことに、物語の進行とともに、物語全体にあたたかな空気が一貫して流れていることに気付くのである。
20代の半ば、折口信夫は自分の道を定めかねていた。学者の道へ進むか、歌人として文学に生きるか。そんな頃、柳田国男の「郷土研究」が創刊、進むべき方向性が見えてくる。一方、30歳にして口訳万葉集を仕上げアララギの選者にもなり、歌人釈超空としての地盤もできてくる。独特の折口ワールドは、古代研究者折口信夫によって深められ、また歌人釈超空によって究められ、熟成されていく。
この小説には、極めて艶めかしく美しい、セクシュアルなシーンがある。中将姫(南家郎女)が春の中日の翌々夜に見る、俤人に抱かれる幻想である。俤人とは冒頭の死者、大津皇子(滋賀津彦)である。この二人は現代から見れば同じ古代に属する人だが、実は違う時代に生き、この物語の時点では死者と生者として隔たっている。ここにさらに現代を生きる折口が絡む。艶めかしくセクシュアルな幻想は、実は折口自身が見たものなのだ。プラトニックな愛の対象であった同性の同級生、亡くなった彼と夢で出会った折口は、いつしか中将姫の身の上となり、なんとも温かい気分が残ったという。自身の感覚に残った夢と目覚め、史実・伝記が物語の中で美しく融合されてゆく。時間の軸は曖昧になり、死者と生者が混じり合う。折口にとって死者は、遠いものではなく、なんとか交感したい、そして交感し得る存在なのだ。
大津皇子は、この世に未練を残したまま刑死された成仏できない未完成霊である。未完成霊は、折口の学問のテーマの一つかもしれない。(これより後、藤井春洋や若い学生たちを戦争に送り出す。それは未完成霊を多く作り出す結果となり、後の折口を悩ませる。)学問となれば、実証や論理で説いていく説明世界である。現に、死者の書で印象的に描かれる中日の入り日は、ほかの著作では民俗学的に説明される。そのような民俗学・古代研究という学問の専門分野が、歌人の手によって美しい調べとなる。大津皇子や中将姫の世界が、共感をもって読者の肌のすみずみまで浸透し、あたたかな印象を残してゆく。熟成された折口ワールドがここにある。
4月、二上山は春が満ち溢れる。未完成霊大津皇子もやっと成仏しているに違いない。
北穂山頂へは、青い健脚のお兄さんが一足先に到着し、そこにわたしが辿り着いた。幻想的な霧の中で、「北穂高岳3106M」と書かれた木の看板に、抱きついてしまう。はしゃいでる間に、臙脂の女性もすぐに登ってきた。お互いに写真を撮りあったり、3人で一緒に記念撮影する。女の子のほうが少し疲れて、カップルちゃんもやってきた。途中までと言っていた黄色の女性は降りたようだったが、途中で会った5人みんなで一緒に登ったような嬉しさが生まれる。一人では登れなかった北穂。ここで出会った人たちがいたからこそ登れた北穂だった。

かわいい北穂小屋でおいしい中華丼を食べ、雨の降る中大急ぎで下山する。それぞれのペースで。紅葉の涸沢の中へ戻っていく。涸沢に着くと青いお兄さんがすでにビールを呑んでいる。臙脂の女性は、この寒いのに涸沢ヒュッテでソフトクリームを食べてきたと言ってゆっくりと戻ってくる。女の子の方が少し疲れていたカップルちゃんは、どうやら今日は北穂小屋泊を決めたようだ。

夜、外で一人で飲んでいた。庇のあるところだけれど、雨だから、人は少ない。隣の男女の会話が自然耳に入ってくる。どうやら屋久島の話をしている。田舎浜という単語も聞こえる。思わずそっちを見ると、「一杯どう?」と三岳。「実はさっきから話しかけたかったでしょ。」図星。「わたしも去年田舎浜で4泊してるんですよ~」「じゃあ、あのおばちゃん知ってる?」そんなんで盛り上がって聞くところ、そのお兄さんとお姉さんは田舎浜の海亀監視員のボランティアで出会ったお友達同士で、お兄さんは今は上高地の食堂で働き、お姉さんは外人さんのご主人がいて、金沢でケーキを作っているという。ひとしきり盛り上がったところで、屋内の談話室へ移動。青いお兄さんと4人でさらに盛り上がる。「誰が一番年上か?」わたし、32歳。「若っ」。青いお兄さん37歳。「おー、俺の方が上かぁ」と屋久島のお兄さん。「じゃあ一番上は」とキュートなお姉さんを指差す。お兄さん39歳、お姉さん40歳。「彼女置いてきていいの?」「いや、まずいみたい」(青いお兄さん)。お嬢の彼女にどうやらフラレタらしい屋久島のお兄さん。そして、わたしは。「よく一人で来るの?」「いや、去年は二人だったんですよ~。屋久島も」「あれま」「振られたんですけどね。」「お、恋バナ♪」「彼がシルバーウィークに穂高来たんだけど、超晴れてて、送ってくれた写メ見て、悔しくって来ちゃいました~」「お、ダーリンのトレースじゃん!」「若いねぇ」「ひゅー」・・・。いいねぇ、恋だね~。と言われていると、そっか、恋か、と思う。明日が彼の28歳最後の日で、明後日が誕生日だ。大阪に会いに行っちゃおうかな、と思う。穂高に一人で登れたし、山を堪能できたから、もう就職しなくっちゃ。就職したら、気軽には行けなくなってしまうから。雨のなか、いい気分でテントに戻る。明日は、ここからバースデーカードを送ろう。



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