流されるままに。
呑んでいればご機嫌。
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Ⅰ
わたしは今、大雪渓を登っている。 ちょうど先週、登ったこの大雪渓を。 ―足跡に足を合わせて踏んで。 ―直線のラインを歩くんじゃなくて、ガニ股で。 リーダーの声が頭の中をまわる。 先週。そう、先週。 リーダー以下5人のパーティー。白馬から栂海新道縦走、という長大な計画の初日。先発隊はリーダーとわたし。翌日3名が登ってくる、という計画。つまり、リーダーと二人で縦走は始まった。台風が来る来ない、と気になる天候。雨の中白馬尻まで1時間だけ歩き、今日はここまで、と白馬尻停滞を決定。まだ朝の9時。雨を歩き身体が冷え切ってしまったわたしは、1週間の長い行程を思って不安を覚えていた。ここで体力を消耗するわけにはいかない、と。自分の体調に対する責任で張り詰めていた。まだ朝であるし、さっさと小屋泊まりを決めてすぐに眠りたい。リーダーはすでに一杯目の生ビールを飲み終え、燗酒を注文してのんびり時間潰しの態勢である。小屋に泊まりたいです。寒さと眠さと緊張でいっぱいいっぱいの私が言うと、リーダーはちらっと私を見て言った。なぜ小屋なのかわからない。寒いのは食べていないからだから、まず食べよう。リーダーは言ってくれたけれど、ご飯を食べてからも冷え切ったわたしは相変わらずで、風邪ひく寸前であることを自覚していた。もう一度小屋泊まりを言い出したら、きっとこの縦走がぶち壊しになる。それじゃあ。もうテント張りませんか。あっさり肯定され、テントを張り、寝袋に潜り込んだ。 あのときは緊張していたなぁ。 蘇ってくる映像を、そのまま、ただ反芻する。今のわたしは、確かに大雪渓を踏みしめている。目の前に広がる大雪渓を、現実のものとして改めて見上げる。 もしもーし。お茶飲まない?お向かいのテントからリーダーに声をかけられたのは、3時くらいだったか4時くらいだったか。お茶を飲んでいたのがいつのまにかお酒になり、晩ごはんになっていた。まだまだ宴会を続けたいリーダーを一人残し、昼寝をしてもまだまだ眠いわたしは7時には再び寝袋へ戻ったのだった。 翌日は、おかしなことになっていた。わたしたちが、ではない。後発隊が、である。まず、食糧を持っている重要人物が予約の夜行に乗り損ねていた。荷物を預けたコインロッカーの開け方がわからずパニックになったとか。それから静岡を中心に東京でも地震が起こっていた。情報を総合すると、食糧を持った重要人物が乗り遅れて、地震の影響で朝の中央線が止まって、重要人物はあずさではなく東京から長野新幹線に乗るらしく、食糧を分担するためにあとの二人は白馬駅で待っているようで、そのうちの一人はすでにご機嫌に酔っ払っているらしい。後発隊を気にしながらも、わたしたちは上で待つことにする。 うしろを歩くわたしのペースが気になってしまうリーダーが、雪渓の途中で止まった。歩き方を見たいから前を歩いて。 あれからまた緊張一色になっちゃったよなぁ。 リーダーの言葉を思い出しながら、緊張は解き、大雪渓を見上げる。 今大雪渓を見つめているのは確かにわたしで、 大雪渓を踏みしめているのは確かにわたしだ。 大自然の中に心を委ねる。 リーダーの言葉を思い出しながら、そのアドバイス通り、足を出す。 わたしは今、もう一度大雪渓を登っている。 PR |
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