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流されるままに。 呑んでいればご機嫌。
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四時の鐘に導かれつつ冬の梅
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影を踏む影もうひとつ月今宵

惜別もまた軽くせり神の留守

熟れし柿に人の口笛透きとほる

穭田の真中に聳ゆ大鳥居

夕冷えの送られて立つ京都駅


父母の家に朝の日小鳥来る

家守る神となりたり祖母の柿

柿すだれ山の辺に人暮らす家

帰りゆくところが我が家秋時雨

冬の日の深く差し射る友の家


ずっと向こうまで続く雲海の、向こうの方がうっすらピンクになってくる。東側はずっと遠くの方まで山がない。広く広く、無限に雲海が広がる。

写真を構えたおじさんは、だからこの山頂はつまらない、と演説している。ご来光の写真を撮っても、特徴のある山が写らないから、どこだかわからない。文句を言いながら、それでも立派な一眼レフを構えてご来光を待っている。

水平線のような雲海の上も、雲がかかっている。ご来光はどうだろう。果たして拝むことができるだろうか。祈る気持ちで瞬間を待つ。雲海の向こうのピンクが広がってくる。一箇所の光が強くなってくる。あそこに太陽がいるようだ。場所を確定し、その一点を見つめる。日の出の時刻を少し過ぎたとき、その一点が、強烈な光を放った。

わたしはここにいる。先週と今週と、二週連続でここに立っている。なんて素晴らしい、なんて奇跡的なことなのだろう。普通にはあり得ない、なんてありがたいことなのだろう。そう、まさに「有り難い」ことなのだ。太陽は半分姿を現したところで、今度は頭が、雲の中だ。雲と雲に挟まれ、ちょうど胴体だけが、形を見せて輝いている。そんな太陽が、雲海の向こうにいる。ここにいることを。ありがとうございます。

テント場へ戻る道は、正面にさらに素晴らしい朝の剣・立山。大満足に、笑みがこぼれる。
白馬の頂上に、もう一度立った。もう充分だ。わたしは満たされている。

あと一泊する白馬三山ピストン計画も、鑓温泉で一泊する鑓温泉ルートもやめた。白馬朝日を縦走して休む間もなくまた白馬へとわたしを運んだわたしの足が、静まったわたしの心へ訴える。帰ろうよ。うん、帰ろう。スタンダードな栂池ルートで、今日中に帰ろう。お家に帰ろう。朝ごはんを食べ、テントを片付け、テントを背負って歩きだす。もう一度、白馬の頂上へ向かう。青い空に、剣・立山が輝いている。長い長い今日の歩行が始まる。

いつか着く、どんなに足が動かなくてもいつか着く。そうはわかっていたけれど、テント場は果てしなく遠かった。やっとたどり着いたテント場で、先週と同じようにテントを張り、お隣さんに呑みましょうと声をかけ、先週と同じように小屋でメンチを買う。500円の缶ビールをしゅぱっと開ける。明日はどちらに?なんて話しながら、先週踏んだ白馬の頂上に思いをめぐらす。

後発隊3人が無事合流し、一晩眠った翌朝。私たちは5人で歩き始めた。白馬の頂上までは、コースタイム約30分。傾斜もそんなにきつくない。シャリバテだった人も、前日のシャリバテが嘘のように軽快に行く。電車に乗り損ねた詩人が振り返って叫ぶ。「ほら、見なさい!」。振り向くと、真っ青な空に、剣岳。重い荷物も忘れ、剣岳に見とれる。そして、頂上への足が速まる。

きれいだったなぁ。先週見たばかりの、頂上からの眺めを思い出す。空は真っ青で晴れ渡り、敬虔な気持ちが湧き上がるはずの素晴らしい山々。立山連峰、そして剣岳。感動と達成感に浸り、祈りに似た感情が生まれるはずだった。きれいだったなぁ。

わたしはその白馬の思い出の中に、今までの数少ない山行で必ず感じてきた、自然を敬い、一体化する摩訶不思議な喜びを再現することができない。あの祈りのような、ちっぽけな自分が生きている感謝、大自然に対峙し、その大自然の中にいる感動。そういうものが、全く思い出せない。そのことに気付いたとき、わたしは焦りを覚えた。朝日岳までの長い一日、その後も続くはずの山行への不安、ここに来るまでに感じてしまった疑問符。わたしの魂は、たぶん純粋に自然と対峙することができなかったのだろう。現世の宿題を抱え、美しい雄大な自然を前にしていながら、その真っ只中に浸かってしまっていたのだろう。あんなきれいな景色を見て何も感じなかったなんて。もう一度、白馬へ行こう。もう一度、白馬岳の頂上に立とう。そう思い立った結果、今またここで、缶ビールを呑んでいる。

明日は頂上でご来光を待つことにしよう。

たった一週間で大雪渓のルートは若干変わっていた。その大雪渓を登り切ると、急登とお花畑だ。お花畑と言っても坂のきつさは変わりなく、ただ気分的には歩いていればいずれ辿りつく、と思うことができる。歩いていれば着く、歩いていればいつかは着く。そう言い聞かせても、なかなか進まない。シャリバテにならないよう、おにぎりとカロリーメートだけは、必要以上にしっかりと食べる。

「シャリバテ」その言葉は先週知った。そしてわたしたちのパーティーの中で、流行語になっていた。

後発隊は、お昼頃出発したようだ。わたしとリーダーは考える。12時過ぎに出発したら、白馬尻が2時ぎりぎり。大雪渓は2時までに入らないといけないから、後発隊は今日は白馬尻で停滞かな。大雪渓を登りきり、急登を休み休み行く間、すでにしんどくなっているわたしたちはそう見当をつける。お花畑を抜け、這うように最後の急登を終える。テントを張って身支度をして、そしてやっとビールに辿り着く。リーダーはすでに生ビールを片手に、スケッチをしている。生ビールのとなりにはメンチがある。それにしよう。わたしも缶ビールとメンチを手に入れて、リーダーに並んで、目の前の白馬槍を眺める。また今日も二人かな。明日はどこ登って待っていようか。白馬槍まで行けるんじゃない?あ、それいいですね。

そろそろテントに戻ろうか。おなかすいたし。そういう時間になっても、後発隊からは次の連絡がない。もしかして登っているのかなぁ。その低い可能性が、だんだん確信になってくる。2時に登り始めたら、頑張っても5時。白馬尻からのわたしたちでさえ、疲れきった大雪渓とそのあとの急登。3時間は不可能だ。今日の日の入りは?6時半、7時頃までは明るいだろうか。目標の時間は日のある間、ですね。おなかすいたけど、ちゃんとした食事はみんなを待つことにして、お酒と、とりあえずラーメン一つ分を食べようか。ちょこちょこ抓んでいると。おーい。おーい。見上げると走ってくる人がいる。おーい。後発隊だ!歓待体勢で彼を迎えたが、彼はミッションを持っていた。空身で戻り、他の二人の荷物を手伝うこと。一人が「シャリバテ」で歩けないらしい。体力のある彼はもう一度暗くなりつつあるお花畑の方へ戻っていった。

それから30分ほどかかっただろうか。もう暗くなったキャンプ場へ、後発隊の3人が到着した。電車に乗り損ねた一人は、先発のわたし達が迎えに行かなかったと文句を言う。まあまあ。来るとは思わなかったですもん。食べ物持ってるんだから来なかったら怒られるじゃないか。来るに決まってるだろう。いやぁ、すみませんでした。疲れちゃって。そして「シャリバテ」の一人は、シャリバテになったことにショックを受けていた。昼から登りはじめるからと、夜行の中でずっと呑んでいたんですよ。だから朝ごはんもろくに食べないて、それで登りはじめちゃったんです。

シャリバテにならないよう、ごはんとカロリーメートを食べながら、先は知れているはずなのに延々と続きそうなお花畑を、今日のわたしは一人で歩く。

わたしは今、大雪渓を登っている。
ちょうど先週、登ったこの大雪渓を。
―足跡に足を合わせて踏んで。
―直線のラインを歩くんじゃなくて、ガニ股で。
リーダーの声が頭の中をまわる。

先週。そう、先週。
リーダー以下5人のパーティー。白馬から栂海新道縦走、という長大な計画の初日。先発隊はリーダーとわたし。翌日3名が登ってくる、という計画。つまり、リーダーと二人で縦走は始まった。台風が来る来ない、と気になる天候。雨の中白馬尻まで1時間だけ歩き、今日はここまで、と白馬尻停滞を決定。まだ朝の9時。雨を歩き身体が冷え切ってしまったわたしは、1週間の長い行程を思って不安を覚えていた。ここで体力を消耗するわけにはいかない、と。自分の体調に対する責任で張り詰めていた。まだ朝であるし、さっさと小屋泊まりを決めてすぐに眠りたい。リーダーはすでに一杯目の生ビールを飲み終え、燗酒を注文してのんびり時間潰しの態勢である。小屋に泊まりたいです。寒さと眠さと緊張でいっぱいいっぱいの私が言うと、リーダーはちらっと私を見て言った。なぜ小屋なのかわからない。寒いのは食べていないからだから、まず食べよう。リーダーは言ってくれたけれど、ご飯を食べてからも冷え切ったわたしは相変わらずで、風邪ひく寸前であることを自覚していた。もう一度小屋泊まりを言い出したら、きっとこの縦走がぶち壊しになる。それじゃあ。もうテント張りませんか。あっさり肯定され、テントを張り、寝袋に潜り込んだ。

あのときは緊張していたなぁ。
蘇ってくる映像を、そのまま、ただ反芻する。今のわたしは、確かに大雪渓を踏みしめている。目の前に広がる大雪渓を、現実のものとして改めて見上げる。

もしもーし。お茶飲まない?お向かいのテントからリーダーに声をかけられたのは、3時くらいだったか4時くらいだったか。お茶を飲んでいたのがいつのまにかお酒になり、晩ごはんになっていた。まだまだ宴会を続けたいリーダーを一人残し、昼寝をしてもまだまだ眠いわたしは7時には再び寝袋へ戻ったのだった。

翌日は、おかしなことになっていた。わたしたちが、ではない。後発隊が、である。まず、食糧を持っている重要人物が予約の夜行に乗り損ねていた。荷物を預けたコインロッカーの開け方がわからずパニックになったとか。それから静岡を中心に東京でも地震が起こっていた。情報を総合すると、食糧を持った重要人物が乗り遅れて、地震の影響で朝の中央線が止まって、重要人物はあずさではなく東京から長野新幹線に乗るらしく、食糧を分担するためにあとの二人は白馬駅で待っているようで、そのうちの一人はすでにご機嫌に酔っ払っているらしい。後発隊を気にしながらも、わたしたちは上で待つことにする。

うしろを歩くわたしのペースが気になってしまうリーダーが、雪渓の途中で止まった。歩き方を見たいから前を歩いて。

あれからまた緊張一色になっちゃったよなぁ。
リーダーの言葉を思い出しながら、緊張は解き、大雪渓を見上げる。
今大雪渓を見つめているのは確かにわたしで、
大雪渓を踏みしめているのは確かにわたしだ。
大自然の中に心を委ねる。
リーダーの言葉を思い出しながら、そのアドバイス通り、足を出す。
わたしは今、もう一度大雪渓を登っている。


兵の夢の残り香萩の花(毛越寺)

染め初めの一葉やある金色堂(中尊寺)

秋潮に揺らるるままの鷗かな(松島)

旅終へる気配や闇の金木犀(道中庵YH)

染め初めて黄に移らふや桜の葉(角館)

音のなき雨降りたるや秋桜(角館)

秋の川中の釣り人動かざる(角館)

稔田の中なる町やバルーン飛ぶ(新幹線より)




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