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流されるままに。 呑んでいればご機嫌。
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上高地に戻ってきた。仕事の電話をしている彼を置いて、一人先に上高地へ。朝早かった一昨日の朝と違って、観光客がたくさんいる。そんな中での大きなバックパックが嬉しい。私は登ったんだよ、穂高に。缶ビールを買い、外であける。山帰りのビールは格別。ビールを飲みながら彼を待つ。

 お風呂とお昼、どっちにする?

理想はお風呂だけど、そうも言ってられない。頭の中に牛丼が回っている。おばあちゃんが「どこへ行ってもかつ丼なのよ。」と言っていたのを真似して、「じゃあ私は牛丼」って中学生くらいのとき決めて以来の私の定番メニュー。最近は吉牛も松屋もあるし、忘れていたけれど、こういうときに出てくるんだね。絶対牛丼!そう言ってはみたけれど、牛丼はメニューになかった。

帰りのバスのチケットを取って、立ち寄り湯の案内もらって、お風呂へ。お湯に浸かると、いつもながら、優しい気持ちがやってくる。ピリピリした今朝の登りも、イライラしていた穂高の下りも、全部わたしの初穂高だ。月餅で名月を祝ったのも、テントで泣いたのも。おでんを食べたのも転んだのも。「恋人なんでしょ」とおばちゃんに言われて微妙な空気が流れたのも、山頂で「一緒に写真撮ろう」と彼から言ってくれたのも。全部。わたしの初穂高。バスで彼は眠り込む。私の膝で眠る彼の頭と肩に手をのせる。真っ暗な外の、大きな月を眺めながら。
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雪だ雪だとはしゃぐ14階の窓

見下ろせば音なき車雪降れり

ラヂヲ聞く遙かむかふの街も雪

春の雪机上の空論投げ捨てる

古写真雪降りゆきて降りやまず

古写真名残雪まだ降りやまず

セピア色の写真の雪も降りやまず

セピア色の写真を春の雪にかざす

春の雪やまず写真のセピア色

初雪や窓に寄り添うやうに花

春の雪チョークの音の響きけり

春の雪ローソクに火を点らせる

春の雪あの人そつと盗み見る

最後の鎖らしきところを終えた。あとはそう難しいところはないだろう。緊張が和らぐ。と、同時に、私の中の駄々っ子が心の中に芽生えてきた。これ以上歩けないよ。私の中の駄々っ子が言う。歩けるくせに。別の私は駄々っ子の私に冷たい。足は、駄々っ子の言うことを聞きたいようだ。歩けるくせに、なんと、何でもないところで膝をつくような形で転んだのだ。テント場で転んで、思い切り打ちつけた向う脛を、もう一度打ち付ける。心が萎える。駄々っ子に負けた自分が嫌になって、座り込んでしまう。自己嫌悪で、いや、やっぱり確かに痛くて立ち上がれない。仕方ない。5分間の身勝手休憩としよう。普通のところに座り込んでいるから、来る人来る人、変な顔をする。そろそろ行くか。もう、こんなガキみたいなことはやめよう。ほんの少し歩くと、彼が待っていてくれた。

 ごめん、転んじゃった。

寝ころんで、一緒に少し休憩する。
ここどうやって下りるの?というような、背丈以上の岩の下りが続く。後ろを向いて岩にへばりついてみたり、座ってお尻で歩いてみたり。どんどん抜かしてもらっているのだが、狭いところ、急なところは私が道をふさいでしまう。のろのろ行く私に対して、それでもみんな優しい。「ゆっくりでいいよ。気をつけて」必ずそう言ってくれる。鎖場を超え、また鎖場。後向きで鎖につかまり、するする下りる。とうまくいくともあれば、鎖につかまったところで、どう足を出していいのか皆目わからないときもある。肩の先の下を見て、行き先を見て。ベテランのおじさんがアドバイスをくれる。そんなこんなで、怖い、危ない、はないが、なんだかとっても難しい。

奥穂高岳山頂。3190M。日本で三番目に高い。
その山頂にはお社がある。ここに来ることができたことへの感謝を込めて、手を合わせる。


冷まじの頂にある祈りかな


ここで日の出を待つ心は、祈りそのものだ。
右は遠くまで山波が続く。左には槍ヶ岳。後ろには常念岳。前は雲海。雲海の遙か彼方が、オレンジに染まってくる。向こうには朝が来ている。右の山波はまだどこまでも青く、美しい。微かに、白く、ピンクに染まってくる。山波の遠くの方に、小さいが、特徴ある山が見えるのは、目の錯覚か。パステル調の淡い夢のような背景に、同じく淡い夢のような小さな、確かにそれは富士山。
富士とは逆に、その存在感を見せつけてくるのは、最初は黒く、今は朝日をまともに受け始めた槍ヶ岳。
そして、背後の常念はと言えば、常念岳の影ができていた。

春を待つ大きな耳の大黒様

「節分」と黒板に書く女教師

目玉おやじの黒き瞳や春嵐

長き髪黒に戻せり梅のころ

春燈や紙を埋めゆく黒き文字

昨日滑落を見た。仲秋の名月を愛でながら、その壁と対峙した。ついに、その壁を行くときが来た。壁にかかる梯子。気を引き締める。


望月や肚に梯子をゆく勇気


梯子に手をかける。一段ずつ、登る。普通の梯子なのに、普通ではないこの環境。どんなものなのか、一瞬肩越しに下を見る。まずい。怖さを認識してしまったら、前にも後ろにも動けなくなる。片足を上げて次の段にかけることも、次の段を掴むために片手を離すこともできなくなってしまう。この梯子で、上にも下にも動けなくなったら、悲劇だ。怖いと思ってしまったらおしまいだ。今見た光景が頭に残らないうちに、目の前の、握っている梯子に視線を移す。梯子を握っている手に神経を集中させる。怖さではなく、緊張感に変換させるのだ。必要以上に気を張り詰める。怖さを感じる隙間を作ってはいけない。そして、改めて一段一段、梯子を登る。てっぺんは、梯子を跨いで踊り場の土を踏まなければならない。躊躇したが、行くしかない。梯子にへばりつき、そのまま向こうの土の上に這いつくばる。すぐに2つ目の梯子がある。大きく息をして、梯子を登ることだけに集中する。

2つの梯子を終えると、膝が笑っていた。極度の緊張感と、そこからの解放。後ろからの月明かりが、道を照らしてくれる。いよいよ奥穂高の頂上だ。
目覚ましが鳴る直前、ちょうど3時に起きることができる。素晴らしい日の出を、最高の場所で見たい。その思いで、獲得した、今年の特技。

3時起床。テントは任せていい?自分の準備、頑張るから。アウトドアに慣れている彼も応諾。

 速いね。

彼が言う。初めてキャンプをした5月、寝袋を片付けるだけで30分もかかっていた。それを知っている彼の言葉。7月、1週間屋久島にいて、相変わらず荷作りは苦手分野のままだった。鳳凰三山、仙丈、と単独行をした。二度の山小屋で、雨具、食糧、水たちは、やっとザックの中での自分の居場所を見つけたようだ。この夏の自分の成長を、誇らしく思う。奥穂高山頂での日の出を目指して、出発。
寒いので早々にテントに引揚げ、エアマットの上の寝袋にくるまる。これから、長い長い夜が始まる。
ふと目を覚ますと、風が轟々唸っている。テントは、ヘリポートの下、背の高さくらいの壁を背にして、ヘリポートへの巻き道のようなところに張っていた。左が東、右が西の切り通し、ちょうど東西の風の通り道であった。風の唸る音は、自分が山の上にいることを思い出させた。夜の長さを思った。突如、意味のわからない物哀しさが襲ってきた。この風の音を聞きながら、あと何時間この長い夜は続くのだろう。あと何時間、この風の音に耐えなければならないのだろう。夜はまだまだ長い。寝袋の中は、体温でぽかぽかしている。自分の外側にある寝袋を抱きしめる。

物哀しいまま、ウトウトしていた。目を覚ました彼が、寝袋から片手を出して、頭をぽんぽん、と叩いてくれる。その手にしがみつく。心地よい眠りがやってくる。夜の終わりはもうすぐだ。
昔々… 灯りのなかった時代。
古人の恋愛生活において、月は大切な存在だった。
『万葉集』には記されている、男が女のもとに通うことができたのは、月の明るい夜だけだったと。
月の光が、男と女に特別な力を与えたと語られている。

昔々、仲秋の名月の夜に、恋が芽生えていた…


J-WAVEで紹介されたストーリー。今年の仲秋の名月は、なんと穂高の2日目。仕事中に流れているJ-WAVEで、そのことを知った。出発の日、別の番組で、仲秋の名月に因んだスウィーツが紹介された。いいことを思いつく。この日は夜行に乗らなければならないが、時間はある。会社帰りに新宿中村屋に立ち寄ろう。穂高2日目の仲秋の名月のために、祝名月特別バージョンの月餅を2つ購入。壊れないようタッパーに入れて、ザックの底へ。

そしてこの日。夕食後。黒い奥穂の壁に対峙している。緊張が漲る。月が、壁を照らす。墨絵の中にいる自分を思う。明日あの黒い壁を登るのだ、と腹を括る。月がきれいだ。月餅で仲秋の名月を祝う。


 月餅の甘さ広がる良夜かな




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